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[参考資料]星湖舎 笹岡さつき 著「死ぬための食事 生きるための食事」より抜粋
自然界のアミノ酸は左巻き
ビタミンやカロチンなどの栄養分を補えるサプリメント、アミノ酸入り飲料など、栄養補助食品の類も豊富になっている今、「体のために野菜を」は正しいのか。時間をかけて調理するのは面倒、サプリメントの方が手軽だと思う人も多いだろう。果たしてそれでいいのか。
「自然界が育んだ作物と化学的に合成されたもの、それらの違いということですね。ちょっと話が難しくなるけれど・・・」と木嶋校長が始めた説明は、分子の構造から始まった。
アミノ酸などの有機酸や糖類など、自然界に存在する分子の多くには、L体とD体という「光学異性体」がある。一卵性双生児のように瓜二つの存在があるとか、右手と左手のような関係だと思えばわかりやすいだろうか。光を回転させる方向が左右異なり、左巻きの方をL体、右巻きをD体と言う。それぞれ、右、左の意味のラテン語の頭文字からきている。
両者は同じ原子で構成されていて構造も似ているし、沸点や融点などの化学的な性質も同じ。だが、左と右の手袋のように、重ね合わせることはできないし、生物学的な性質は全く異なる。例えば、グルタミン酸のL体は旨味成分として働くが、D体は苦味として働く。必須アミノ酸の一種、フェニルアラニンなら、L-フェニルアラニンは甘く、Dは甘くないというように。
甘さや苦味なら問題ないかもしれないが、薬の場合には、一方が有効に作用しても、もう片方は害になることがある。 (中略)
「で、ここが重要なんだけれど、自然界の生命体は、原則的にL体で作られているんです。植物も動物も、人間の体もそう。アミノ酸も、自然由来のものは左巻きのL体。だから、自分の体の構成物質と同じ、L体のものだけを取り込むんだけれど、化学的に合成されたものは、DとLが半々になっている。もちろん、いらないD体を排除する機能が、人の体にはあるけれど、化学合成物質が大量に摂取された場合には、不要なD体を排除しきれなくなる可能性もありますね」
L体だけ、D体だけを化学合成する方法は非常に難しく、長年の研究の末、ようやく平成13年に「不斉合成」という方法が発見され、名古屋大学の野依教授がノーベル賞を受賞した。当然、D体の大量摂取の影響は、まだまだ解明されていないのだ。
人の体も、地球環境も、これほど大量の化学物質に遭遇したことはかつてなかった。生まれた時から、食品添加物や化学肥料に接して成長してきた現代人は、人類の歴史における初めての例なのだ。だから、研究の及んでいない未知の分野に、自らの体を被験者として提供するつもりがないのなら、化学物質の摂取には用心するのが無難。栄養は自然からもらうのが、生命体である人間にとって、最も健康なこと。土にとっても同じだと私は思う。「長年、インスタント食品を食べているけれど、すごく元気だ」という方には、木嶋校長のこんな言葉を紹介しよう。
「生命の劣勢変異は、その子供か、三世代目に出ることが多いです。先祖の悪行は、DNAに組み込まれて、孫に現れるんですね」
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