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            無農薬・無肥料栽培でリンゴ生産  (十勝毎日新聞 平成16年5月24日の掲載記事)

 青森県中津軽部で無農薬、無肥料栽培によるリンゴを生産する木村秋則さん(55)=木村興農社代表=がこのほど、関係者への営農指導のため十勝を訪れた。管内でも賛同者が広がりつつある自然農法などについて聞いた。(広田実)


   −農法転換のきっかけは。

 20代で就職した当初は農薬を徹底散布しながら収量を追求していたが、夫婦とも皮膚が薬に負けてただれるなど不調を来した。このままで良いのか−と疑問を感じていた時に「自然農業論」という書籍に出会い、転換を決意した。


   −具体的な手法は。

 緑肥として豆類をまき、根粒菌の力を借りながら土壌に窒素分を取り込むのが基本。数年おきに大豆をまいて春と秋に下草刈りをするだけで、たい肥はやらない。作物を甘やかすことなく、自然な抵抗力を持つよう厳しく育てている。
 急な環境変化に木が対応できなかったのか、はじめの数年は幹が細り、葉が落ちて病気も相次いだ。しかし、8年目あたりからゴルフボール大の実を付けた。その後は年々安定して、周辺農家の7割程度の収量を確保できるまでになった。リンゴ畑を自然の山林と同様、樹木の足元に下草がある状態に保ち、多種多様なバクテリア(微生物群)のいる環境をつくったのが良かったのだと思う。ある程度収量が落ちても経費との差し引きで純利益が大きければ良い。


   −化学物質を多用する近代農法をどうとらえるか。

 有機農業といってもたい肥を使い過ぎ、食味の悪い作物を収穫している例があまりに多い。山林で落ち葉が地表に積もるように、たい肥は適正量を表面散布する程度にとどめておけば害虫は集まらない。土は細かく砕き過ぎるとかえって雑草の発芽を促進させる。あえて土塊がゴロゴロした状態にすれば雑草は育ちにくい。家畜ふん尿を使うのは良いことだが、加減を誤ると硝酸態窒素が作物に蓄積、地下水か河川汚染を招く心配がある。


   −今後の目標は。

 転換した当初は「かまどけし」(津軽弁で財産を減らすの意)と変わり者扱いされた。今では農家仲間に理解者が増えており、農薬使用量を減らす試みが増えてきたのは心強い。十勝でも幕別、大樹の農家が興味を示し、トマトや小麦の間作に大豆をまき始めている。今は全国各地を訪れて「自然農法」の指導に忙しく、ほとんど自宅にはいない状態。心と体の両面をつくるのが良い食べ物。賛同者を増やしたい。


   −十勝農業へのアドバイスを。

 作物の外観や表面上の売上高に踊らされることなく、大量生産の手法を考え直してはいかがか。アレルギーの子供が増え、犯罪の若年化が進んでいるのは食べ物を通して摂取される化学物質が少なからず影響していると思う。
 就農当初、農家はもうけが少なく効率の悪い仕事と考えていたが、30年以上を経験して百姓ほど面白い仕事はないと実感している。農家自身がもっと安全食品に対する社会的ニーズを敏感に受け取り、現状の生産体系を見直していかなくては。研究心と開拓者精神で突き進んでほしい。






  (化学合成された殺菌剤は使用せず、”酢”を散布することで、病気対策を施している。





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